現役人事部長の「採用研究室」

人事部長の「採用研究室」

採用面接に社員研修、査定評価まで…人事部という職場で日々思うことを書きます。企業の人事担当者、学校の就職支援課、就活する学生さんの参考になれば幸いです

潜在能力か、即戦力か

もうすぐ内定を出す時期になりました。

この時期は毎年、プロ野球のドラフト会議が頭に浮かびます。

ピッチャーを補強するか、打撃の即戦力を複数指名するか。優秀な受験者は内定を出しても、競合の会社に持っていかれるリスクがあるのも、ドラフト会議に近い気がします。

 

役員と人事部メンバーで、いつも同じ議論が最終面接後におこなわれます。

「潜在能力か、即戦力か」

どちらも重要なのは言うまでもなく、実際、両方の能力をバランスよく備えた受験者が内定を得ることになります。とはいえ、受験者の多くは社会人経験のない学生で、せいぜいアルバイト経験があるかないか。

《可愛がられるタイプのメリット》

例えば、

[A]大人と長い会話をした経験が少なく、質問を重ねられると萎縮して、自信がなさそうな表情や口調になる人がいます。ただ、入社してやりたいことや、これまでの経験から学んだことを聞くと、自分をしっかり持っていることはわかる。この受験者をAさんとします。

[B]かたや、アルバイト経験が豊富で目上の人とのコミュニケーションも慣れている。お客さんや先輩から可愛がられるのは間違いなく、営業ですぐに結果が出せそうだ。ただ、それほど自律した意識はなく、自分のコミュ力なら大丈夫だろうという(根拠のない)自信があり、挫折経験もない。この受験者をBとします。

AさんBさんともに、教養や知識は合格水準にあり、明るさや清潔感もある前提で、あなたはどちらを選びますか?

私の考えは、もともとはAさんを選ぶ考えでした。明らかなコミュ障でない限り、面接のような場で緊張する程度なら仕事を重ねるうちに慣れてしまいます。

エース社員と言われる人のコンピテンシーを見ると、自分の目指す方向を自分で考えている人、小さなことでも自分なりの意見を持っている人が多いです。これを考えると、Aの方がブレイクする可能性があると見ます。

ただし、Aグループが全員伸びるわけではなく、理屈っぽくなって扱いづらい社員になるケースも少なくありません。その理由の多くが、直属の先輩の教育や、部署の育て方と相性に関連している気がします。

つまり、いい種を撒いても、土壌が豊かで種に合った環境を用意しなければ実らない。

最近は、Bさんのような人材の中から、さらに厳選することが重要ではないかと強く感じています。

私自身、どちらかというとBグループで、30歳になるまでは会社に与えられた仕事をこなすだけでした。30歳になり、初めて部署異動してから3年経ったところで「一皮剥ける経験」をしてから意識が変わりました。

周りから好かれて、お客さんや先輩が喜んでノウハウを教えてあげたくなるようなキャラは、チャンスが多く回ってきますし、依存意識が抜けなければピンチもきます。

Bグループの人全員ではないでしょうか、少し遅くなってもおっとり成長する人のほうが、後輩の指導も実体験をもってできるのではないかと考えます。

 

じゃあどっちがいいんだ、と突っ込まれそうですね……。

AB両方のよさ(とリスク)が、自社の社風に合っているかを理解したうえで、ABの比率を決めるのが重要となります。

ちなみに私の会社は、個性の強い中堅社員が多いので、Bパターンがある程度必要と考えています。

そして、役員が最終面接の中の1エピソードだけで受験者の印象を決定づけないように、うまく導くのが人事部の仕事だと思っています。